山手線の車窓にて
(発表:93/ 3/27)

Wアキレス

電車に乗るとき、たいがい私はドア際に陣取り外をボーっと見る。
それが一番の安らぎのひとときだ。
だから仕事が忙しくて、ほんとは仕事場に泊まった方が楽なときにも
可能な限り電車を使って帰ることにしている。

それに初めて気づいたのは、そんなふうにボーっと外を見ているときだった。
山手線の電車が浜松町を出て田町との真ん中あたりを走っているとき、
進行方向の左側に一瞬、視力のあまり良くない私には大きな壁がそこにあるように
見えた。
次の日からはそれに注目するようになった、あれは何だろうと。
ただ、いつもそれが見えているかと言えばそうでもなかった。
新幹線が視界をふさいでいるとまったく見えないし
そうでなくとも、確認できない日があった。
また、それは日によって色が違って見えた。
初めて気づいたときは濃いネズミ色に見えたが、同じネズミ色でも白に近い日も、
また、青っぽく見える日もあった。
もしかしたらとも思ったが、山手線からそんなものが見えるなんてと
頭のなかで否定していた。

だがある日、それは背後の太陽に照らされてギラギラと輝いていた。
家で地図を調べてみた・・・それは紛れもなく”海”だった。
山手線から埋め立て地に囲われているとはいえ、海が見えるなんて。
その意外性が大きな感動だった。
それ以来、朝の通勤の楽しみが増えた。

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