狂技エアロの女・NO16
(2010.10.13)

ジャンク

正木は押し込まれるように黒塗りの車にそのまま、乗せられた..
中には運転手の他に助手席にも男がいて、後ろで、正木を押さえつけてスエット男が
座った。

車は誰も話さず無言のまま40分ほど走って繁華街に着いた。
正木はそこで降ろされ、あるビルのクラブに連れていかれた。

そこにスエット男がスーツ着替えてやってきて、「さっきは済まなかったなゆっくりしていって
くれや」と、威圧感のある雰囲気でビールを出された。
正木の席には誰も着いていない、他の客席には何人かの女性が2,3人着いていた。
20分ほどして、正木の前に1人の女性が現れた、
何とそれは斉藤静江だった!

「驚いたでしょう!」
斉藤静江は正木にそう言った。

その後、斉藤静江は正木と乾杯をしてとんでもないことを言い放した。
「さっきの男誰だと思う?あれ、私の旦那よ!」
驚いた事に、スエット男が斉藤静江の旦那だと言うのだ!

しかもこの店のオーナーだと言う。
正木はまさか斉藤静江が結婚しているとは気づかなかった。
そもそも今までそんな情報などなかった。

そして斉藤静江は正木に、「うちの旦那先月勤め(刑務所)から出てきたばかりで
あなたと私の関係疑ってるわ」と正木に言ってきた。

ここで正木は自分から血の気が引くのが分かった。
正木は復讐で陥れるために斉藤静江に近づいていたのだが、何と斉藤静江は
最初から計算ずくでこの日の為に正木にはめられた振りをしていたということだ。
騙されていたのは正木の方なのだ。
そしてその目的は、金だろう!恐らく極道の女を騙して寝たと言う理由だ。

お店は閉店を迎えて、正木の席だけは飲み物が下げられないまま、帰させる様子はなく。

正木以外客は誰もいなくなった。

正木はその後案の定、斉藤静江の夫にいくら用意できるか脅された。
そしてその場に居た斉藤静江は殴られた、「男と遊びやがって!」
それは正木を更に脅かす為の計算上の演出だろう。
斉藤静江は泣きながらハンカチで口元を押さえながら、店を出た、その時入れ違いに
男が入ってきた。
その男が入って来た瞬間店の雰囲気が変わった。

斉藤静江の夫はその入って来た男の方に向かって歩き出し、カウンターのしたから紙袋を渡した。
その男は紙袋を、持ってきたアタッシュケースに入れ大事にしまい込んだ。

そしてその男が入って来たせいで少し店の中が忙しくなった様子で、
急に斉藤静江の旦那も「今日はこれまでだ3日後までに返事をよこせ」と言われ、正木は帰された。

正木は次の日、斉藤静江の実家を訪ねた。
斉藤静江の祖父は3期も市議会議員を務めた人物だ。
そこの孫がヤクザまがいな事をして許されるはずがない。

しかしその実家に行ってみると売り家となっていた。
正木は、更にいろいろな情報を集めた。その結果
斉藤静江の祖父がすでに2年前に脳腫瘍で倒れ昨年死んでいたことがわかった。
更に4期目の落選で、右翼団体との関係が指摘されていたことは、事実だった。
斉藤静江はどうやらそこの、右翼団体にお金を流してる、暴力団組員のNO2と籍を
入れたらしい。
斉藤静江はすでに親戚などからは、縁を切られ疎遠となって現在に至ってる事まで分かった。
今の斉藤静江は個人的にはさほどお金は持っていないだろう、
ヤクザの夫も恐らくもっと大金が転がり込んで来ると思っていたに違いない。
そこに正木が斉藤静江に復讐など考えて、彼女に近づいた所、いいカモされた、そんなところだと
正木は考えた。

正木はここに来て、競技エアロをやっていた1人の女との出会いが、ここまで発展するとは
夢にまで思わなかっただろう。
正木は今になって、身震いを感じはじめた。
正木は自分の身の安全とこれからの解決方法を、警察か、弁護士か選択を考えた
それは両方でもいいが、警察をあまりあてにはできない、
仮に警察に届けてたとしてもだ、一時は解決したとしても、あの斉藤静江の事だ
それで簡単に終わるだろうかと心配してしまった。


その時、肩に刺青のある、清水香織からメールが届いた。
今日のレッスン終了後、食事に付き合って欲しいというのである。
正木は今はそれどころでは無かったが、気分を変えたい気持ちもあって誘いをを受けた。


PM8:00
スタジオに入った、正木は21:00か始まる清水香織のレッスンの前に
パワーエアロ50たるものを初めて受けてみた。
初めて受けるのは正木はここのFCの会員ではないからで今日はビジターで入ってるせいだ。

しかもこのパワーエアロ50の担当のイントラは競技指導をしていて地域では中々有名人で、ブログでも自分を公開している人気のイントラだった。
パワーエアロ50のレッスンは流石人気だけの事はある、強度も難度もレベルは高く、それで面白い!
しかし楽しむなんて、今の正木にはそんな余裕はないが、
難しいレッスンは誰でも作れる、
難しくて面白レッスンは滅多にあるものじゃない、それだけ印象に残るレッスンだった様だ。

更に言えば自分の感性に合うレッスンとなればほとんど無い。
しかしそれが見つかったとき、人は追っかけとなり、
このイントラのこのレッスンじゃないと体が満足しなくなるのだ。

パワーエロ50のこのレッスン、こうゆうマニアックなクラスは特殊な雰囲気と常連達が幅をきかせる。
イントラの斜め後ろについてる女性は背が高い、あれで動かれたらほとんど後方の人達は見えないだろうが、そこは恐らく彼女の
定位置なのだろう。
また、遅れて来たメンバーが仲間からどうぞ前にって感じで場所を空け、前方に位置を用意し差し出しだ。
それを見ていた違う派閥の仲間は、又かと言う感じで白い目で見ている。
よく立ち位置で悩んでいる人がいるが、その人に
こんな状況下で、先に来た人が好きな位置を取っていいよとか、セオリー通りに教えていたら、その会員は完全に蜂の巣にされてしまう。

これはこれでここに通ってる会員が長いこと作りあげてきた暗黙のルールでもあるのだ。

それがいいとか悪いとかではなく、そのスタジオのそのレッスンの空気を読まないと、せっかくの楽しレッスンが
最悪の物になってしまう。新人の方など、これでエアロを辞めるなんて事も実際あるのだ。
したがって立ち位置対するアドバイスは慎重にするべきだ。

続いて
清水香織のレッスンに入った、先ほどのレッスンの会員の9割がいなくなり
まったく別の会員で埋まった。
今度は派閥らしい雰囲気はみつからないあっても、楽しそうに固まってる
更にここは比較的順序が守られてるようだ。

正木はさきほどより、前にでて少し右側のポジションを取った、それでもだれも変な目で見る者は
いなかったが、見慣れないビジターの正木は少し浮いていたかもしれない。
それにしてもレッスンによってスタジオの雰囲気がこうも随分変わるのだ。

レッスンが終了して、昔懐かしい初めて一緒に食事した専門学校の隣の
ビルの地下にあったピザ屋で食事をした。
店では清水香織は今でも正木に好意があるのか、もの凄く慣れなれしく話してきた。
旦那とは来年やっと離婚のめどが立ったらしい。
正木は、清水香織の笑顔に少し救われていた。
清水香織はそれでも浮かない正木の顔を見て、何度も何にかあったんじゃないのか、心配そうに質問してきた。
そして、正木も緊張の糸が切れたのか、はち切れそうな胸の内を気がつくと、今回の斉藤静江の一連の事件を洗いざらいすべて話していた。
それは正木の愚かさ、つまらないプライドなどで身を滅ぼしてる馬鹿な男を露呈してしまうことになる覚悟の上でだった。
正木は話しを説明しながら、なんだか斉藤静江と自分が似てる事に違和感を覚えながら話していた。

話しを聞き終わると冷静な表情で清水香織は、おもむろに携帯を取り出して、「今から来れる?大事な相談があるの」と携帯の相手に連絡した。
清水香織は「今私、警官とお付き合いしていて、その人が力になってくれるとはず」と正木に言ってき
た。「そして今から来るから」と、正木を無視するかの様に話しを進めた。
正木はこの瞬間、清水香織が精神病棟から戻って来て姿を見せた理由は、今だ自分の事を好きなんだと感じ取った。
それは正木を、真剣に助けようと決め込んだ瞳の奥に見える力強さから来る物だった。

一時間後警官が現れた。

その瞬間、正木はその警官を見て驚いた!
それは、あの斉藤静江のクラブで、遅くに入って来て、
カウンターから袋をアタッシュケースに入れていたあの男なのである!

続く・・・・

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