狂技エアロの女・NO17
(2010.10.18)

ジャンク

正木は驚きを隠せなかった、間違いないあの時店に斉藤静江
と入れ代わりに入って来た男だ。
アタッシュケースに何を入れたかは分からないが、とても大事にしまいこんでいて、
正木はお店の客にしては珍しい様子に特徴をよく覚えていたのだった。
向こうはその時に店にいた男が正木だとは気づいてはいなかった。

清水香織の男は着くなり、あまり時間がない感じで
手っ取り早く済ませしょうと慣れた口調で話してきた。
男は山田と名乗った。
山田は、思いやりといった感じは一切なく、
冷たい雰囲気さえ漂っていた。
しかしそれもそのはず、ヤクザ絡みの金、女問題で、暗黙にもみ消すせば
現職の刑事がいくら自分の女の頼みだからと言っても
面倒くさいどころか、事によっては死活問題になりかねない話しでもある。

しかし正木には何故かこの話しを、この刑事は受けてくれるような気がしていた。
それは、この刑事が斉藤静江のクラブにいた事が、何か関わっている気がしていた。
素人判断的ではあるが、ヤクザが経営してる
クラブに現職の刑事が出入りしてるとなれば、たぶんそれなりの仕事、こんなつまらない事で騒ぎ立てはしたくないはずだと、正木はとっさに考えていた。

その正木の考えは的中した感じで、山田は「話しはつけましょう、お約束いたします」
と言ってきた。
正木はとっさにただと言う訳にはいかないと思い、謝礼を申し込んだ。
すると山田は「いやいや、お金をもらったらそれこそいけない話しになりますから」
といって、「今回は香織の昔大変お世話になったお友達と聞いているから
心配しないで」と言ってきた。
そして足早に、注文も取らず「まだ仕事が残ってるから、これで失礼」といって
去っていった。
正木も席を立ち深々とお辞儀をして彼を見送った。
その山田の冷たい雰囲気は言葉と裏腹に最後まで変わらなかったが、毎日人を疑う仕事していればそんなもんだと正木は思った。
それに今の正木にはこれ以上心強い見方もいなかったに違いない。

山田が帰った後、清水香織はしばらく正木を見つめていた。
彼女は精神病棟から、イントラに復帰して正木の前に現れたのは間違いもなく
正木の事を今でも好きで忘れないのは明白だった。
しかし正木には、今の山田と言う刑事との関係がとても気になっていた、幼い頃から家庭環境で苦しみ、苦労して生き抜いた真面目な彼女と、あのどちらがヤクザかわからない様な、いかつい刑事の山田をどう見ても不似合いでしょうがなかった。
正木は思いきって彼との出会いをたずねた。

清水香織は一瞬困った様な、険しい顔になったが、目の前のコーヒーを飲み干すと、笑顔になって語り始めた。

精神科の隔離病棟では、犯罪者も時々送られてくる、そこには当然刑事や弁護士など訪れる事はよくあるのだと言う。

清水香織は時折、刑事の山田を病棟で見かけていた。
山田も清水香織と目を合わせてはいた。
数ヶ月後、清水香織は退院し自分の母と一緒に暮らし始める。
母もパートで家賃と自分が食べるだけで一杯一杯の中、
清水香織も今まで稼いで来たお金は全て、医療治療費として消えた。
仕事を失った清水香織は退院後の生活は苦しかった。
そこで清水香織はイントラに復帰しながらも、母に生活保護をなんとか
もらえないか役所に出向いていたとき、別件で来ていた山田に出会う。

山田は裕福な環境で育ったリッチな刑事だった、
清水香織もお金には困っていたものの、自立した芯の強い女性の上に
モデルを思わせるスタイルと綺麗な顔立ちは、誰もが目を見張る。
そこからは話しが早かった、山田は生活担当の課長を呼び出して
事情を説明、清水香織の母の生活保護の手続きをすませる。
そして妻子ある身で有りながら、その後清水香織と交際が始まった。

清水香織は山田からもらった大麻を吸ってるなど、当然正木に話す事は
なく。
それなりの幸せをつかんだ程度の話しで終わらせた。

正木は今でも清水香織が好きだった。もちろん清水香織も正木を思っていた。
しかしそれはお互い、言い出す事はなかった。

その後、清水香織のお陰で、斉藤静江を始めとする旦那や組織からは
一切連絡はなくなった。

しかしそれが新たな事件の幕開けに・・・・

続く・・・・

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